消息不明⑥

5月22日の午前9時40分のラインを最後に又たっくんと連絡がつかなくなった。ラインは既読にならず、電話は呼び出し音が永遠鳴っている。夜は心配をぐっと我慢して寝たが、朝まだ既読がつかないラインと変わらず出ない電話に布団の中で迷ったあげく、たっくん家に車を走らせる。トンボ返りすれば仕事には間に合う。

案の定たっくんの車は家になかった。お兄さんが出てきてくれたけど、「そのうち戻るんじゃないですか?」楽観視している。明日は病院に予約をいれていて、私も休みをとって行くつもりだと伝えると、「行くんじゃないですか」と。

たっくんは妄想で考えがコロコロ変わる。私の事を信用する、もう心配しないで安心してと言っていた数日前…

自分は国家の要注意人物で、家から出たらパトカーが張っていて、ラインも電話も情報が抜き取られていると考えが思い浮かぶ度にジッとしていられず、行動してしまう。完璧に入院対象だし、なるべく早く治療しないと事故や事件がおこる可能性が高い。精神科で十年働いてきたから少なくともお兄さんより分かる。

元精神科のナースだって、たっくんを愛していたって未治療の精神疾患の急性期には太刀打ち出来ない。私が働いていたのは施錠される病棟で治療中の患者さんを複数人の看護師で昼も夜も看護していた。常に誰かの目があり、医師にすぐに報告できる。そんな所で十年いたって、たった一人の彼氏に心配する以外今なにも出来ない。

とりあえずお兄さんの連絡先だけきいて自分の家にかえり仕事に行った。

何回もラインを開いても既読はつかない。仕事が終わって電話をしても、留守番サービスにつながる。連絡をしてほしいとメッセージをいれる。お兄さんに電話をかけるがまだ帰ってきていないと言う。明日は必ず病院にいきたいから 思い当たる居場所に連絡してみてくれないかと必死に頼む。「病院にはいくはずだから 明日もし帰ってこなかったら自分が探しますよ」

お兄さんの口調がちょっと苛立っているように感じた。たっくんを心配して家にお仕掛けたのは今日が初めてではないし、部外者である私に色々言われるのは鬱陶しいのかもしれない。

分かりましたと電話をきった。

ずっとずっと心がざわざわする。喉に突っかかりを感じる。動悸がして手首に触れると不整脈だった。私は私を維持しなくちゃ。

バクバクとお菓子を食べたら夕飯が入らなくなってしまった。

躁状態 アルコール依存症 妄想    検索することも少し疲れて、心配することから離れたい。