塚地さんは、病院に出入りしている害虫駆除業者さんだ。
お笑いコンビのドランクドラゴンの塚地さんに体系と雰囲気が似ているので、私のなかで勝手にそう呼んでいる。
塚地さんは年に2、3回病棟にやってきて壁際や部屋の隅に薬剤を噴霧していく。
ブルーのつなぎを来て笑顔でやってくる。体型が体型なので、毎回大汗をぬぐって作業しているため、いつも大変そうに見える。
夏だったか、尋常じゃない汗を垂らして仕事していたので「暑くて大変ですね」と声をかけると、パァ〜と輝く笑顔で挨拶してくれた。笑うとほっぺの肉がぎゅぅと上がり目がなくなったかのように細くなった。
それから、顔を合わせると私に対して笑顔で挨拶してくれるようになった。
個別で挨拶されると親近感がわくものだ。
ある時、おふろ場の鍵も開けてもらえますか?と頼まれて開けにいくと、2人になったタイミングで「あの…ご結婚はされているんですか?」と塚地さんに聞かれた。
「あぁ、昔にしてました。」と笑って私は答えた。
あれ、塚地さんって私に気があるのか?と思ったが私も仕事中なので 頼まれた事をすませると「じゃあ お願いします。」と業務に戻った。
又半年くらいして 塚地さんかが病棟にやってきた。今日は保護室前の廊下に薬を撒くので入ってもいいかと聞かれ、「どうぞ」と鍵をあけ一緒になかに入った。
塚地さんは 恥ずかしそうにただでさえ暑くて赤く蒸気させた顔を、さらに赤くして
「この病院で1番きれいです。」と褒めてくれた。
又4ヶ月位たって 私が処方された薬を薬局に取りに院内の道を歩いていると、業者の車の中から私に気付いた塚地さんが、輝く笑顔で手を振っていた。
たまにの一瞬しか顔を合わせないのに、塚地さんの好意が十分伝わってきて、それに無邪気な子犬のような純粋さを感じて私はどうしたものかなぁと思っていた。
又半年後、病棟に塚地さんがやってきて、今回は患者さんもいるホールで呼び止められ、「今度、空いている日があったら食事にいきませんか」と唐突に言われた。
私は業務の途中でバタバタしていたので、驚いたこともあって「え?あぁ…はい」など曖昧な事を曖昧な顔で言い、塚地さんの横を通り過ぎた。
それから何回か塚地さんは病棟にきたが、顔を合わせない時も多く私もすっかり忘れていた。
しばらくぶりに害虫駆除業者が病棟にきた時に担当が塚地さんじゃないことに気付いた。あれ、今日は違う人だなと思っていると その業者の方が私にそっと近づいてきて「前任者の前田から お世話になりましたと よろしくお伝えくださいと頼まれました。」と声をかけられた。
前田? そうか!塚地さんは前田さんだったんだ。仕事辞めちゃったのか。
わざわざ〇〇病院の〇〇病棟に、こんな看護師さんがいるから、お礼を言って欲しいと 塚地さんは引き継ぎしたのだろうか。だとしたら、だいぶ私のことを本気で好きだったんじゃないか。
あのデートのお誘いも真剣な告白だったのかな。
もう 挨拶すらできないのかと思うと、日焼けして肩からタオルをかけてブルーのツナギで汗を拭きながらニコニコわらう塚地さんのことをしばらく思い出していた。