葉山さん

料理のさしすせそ ならぬ看護の超基礎、基盤を私に教えてくれたのは、まぎれもなく葉山さんだ。

感謝している。(だいぶ後になって。)私は病院に新人看護師として入職して5年間葉山さんと仕事をしたのだが学ぶことが沢山あった。葉山さんは50代、ベテラン看護師だ。細身で髪の毛は黒のオカッパ、化粧っけは全くない。私服も喪服ですか?という位黒い服をきている。(ナース服が白いからまだいいが)表情も柔らかさがないので(わたしの仲良しの先輩からいわせると、ナマハゲの顔だと言っていた。ちなみにその先輩は葉山さんからバチクソイジメられていた。)貧相で幸のない顔をしている。(ごめんなさい。)結婚はされていて、一度家族写真を見せてもらったが、普通の幸せそうな家族だった。

葉山さんはとにかく仕事が的確で早い。そして取りこぼしやミスもない。知識も技術もたけている。毛細血管でしょ?みたいなほっそーい、ほっそーい血管に点滴をさせるし、何聞いても教科書に乗ってるような答えが返ってくる。患者さんの観察も半端なく急変に誰よりも早く気付く。そのせいで毎回私が対応に追われて大変な思いをすると嘆いていた。

患者さんにも教科書的に間違いのない優しさを示すし、言葉使いは丁寧だし、気遣いもある。

とにかく完璧なのだ。

葉山さんから学んだことをいくつか書こう。まず、看護師たるもの自分自身の体調を管理するのも仕事である! だから葉山さんは、体調不良で私が休んだ次の日、「昨日は迷惑をかけてすみませんでした。」と謝っても完全無視だった。

看護師たるもの、前日に自分の業務のシュミレーションをし円滑に無駄無く仕事が運ぶよう計画をたてよ!  

だから、葉山さんのシュミレーションを邪魔する他者のミスは許せないのだ。それで私は何度も葉山さんの機嫌を損ねている。

看護師たるもの夜勤者には完璧な状態で引き継ぐべし!

夜勤者が入ってきて患者さんのシーツや衣類がぐちゃぐちゃだったり、すでに点滴が漏れているとか、部屋の誰かが排便をしていたとなると、長丁場の夜勤の始まりから夜勤者のテンションが落ちてしまう。だから自分の受け持ちの部屋は最後に必ずチェックし綺麗な状態で引き継ぐ。私の場合は新人だった1年目あたりは、その最終確認を私がした後に葉山さんが見回って下さっていた。別に頼んでもないし、プリセプターでもないんだけどね。有り難い。…有り難いけど、アラ探しみたいに感じたこともあった。 でも今考えると感謝だよね、本当。

検査データを見てドクターに報告せよ!

これはそのまま。新人の頃はデータが見れなくて、検査から上がってきた採血データの束をただリーダーに渡すことしかしてなかったんだよね。だけど命に直結する数値もあるからデータがあがったらすぐに自分でも目を通して、気になる数値は報告しなくちゃいけないって教わった。 

他にも看護技術の基本、実践、知識も聞けばきちんと教えてくれたり、見せてくれたり、不安な時は頼めば一緒に付いてきてくれたりしてくれる人だったので新人の私にとって本当に助かった。慣れてきてからだが他愛もない話をすることもあったし、お互い様だからと私の業務を手伝ってくれることもあった。

この お互い様だから という言葉も

私が大変な時は手伝ってよ的な圧を感じて少し怖かったけど。

 

優しいところも確かにある。先輩看護師として申し分ない。 でもね…

意地悪なんだよ。自分が気に入らない人に。

私の仲良しの先輩なんて、シフト表の名前の順が葉山さんの上にあっただけで嫌われてかなり冷たく当たられていた。余りにひどいから、先輩は師長に言って印刷の順番を変えてもらったそうだ。

あとは、例えば誰かが、何かの処置を忘れているとか、何かの処理を取りこぼしていることに気づいていても、相手が葉山さんの気に入らないスタッフだとそれを教えてくれないんだよね。その日に言えば済む話なんだけど、わざと次の日とか後になって「えー、〇〇やってないんだけど、この日のケアだぁれ?」とターゲットに聞こえるように言うんだよね。

それで、1週間のケア割表があるんだけど、それを見ながら犯人を探すわけ。(誰だか分かってやってるのよ。)それで確認しながらコソコソ、ターゲットに聞こえるか聞えないか位の声で悪口言ってるわけ。辛いんだよー。それを 何人もに言うんだよねコソコソ。

私です!犯人 分かってます!すみません。肩身の狭ーい思いになる。

あとは、例えば葉山さんがその日のリーダーだとしたら、全てが完璧に回るように目を配るし采配するんだけど、葉山さんがその日Aケアで、気に入らないやつかがBケアだとしたら、Bで何かトラブルあっても「しーらないっ。」って冷めて小馬鹿にした感じでノータッチスルーなのよ。自分のAが完璧ならそれでいいんだよね。

冷たいんだよー。

とにかく怖いからさ、葉山さんをホイホイおだてて自分に矛先が向かないようにしているスタッフもいたよ。葉山さんが大きめの処置を担当する時は、声もかけないのに何人もスタッフが手伝いに来て余る位でさ、次の日私が同じ処置担当したら、仲良しの先輩と2人しかいなくて人数足りなくて焦ったよ。ちーん。

現実なんてそんなもんよ。

色んなことを良くも悪くも教わったかな。

5年たって葉山さんが別の病棟に異動が決って、流石にお世話になったから手紙とハンドクリームをお礼に渡したんだよね。そしたら返事を頂いて、そのなかに「斉木さんにあたってしまったこともあってごめんなさい。」って書いてあったんだ。

仲良しの先輩に話したら、「あたってるって自覚あるって最悪じゃん!」って言われて、謝ってくれていい人だったのかなって思った私はあまちゃんでした。

もう一度、葉山さんと同じ病棟で働きたいかと言われたら、丁寧にお断りするけど、新人の私にとって葉山さんの厳しさは必要だったかなって思う。全然別の理由でトイレで泣いたことも何回もあったし厳しいことは他にも沢山あったから。

インパクトあることの方が自分に糧になったと思いたい。

月日は流れて、葉山さんにお孫さんができたらしく少しは丸くなったのかなーなんて思ったけど、葉山さんを新人のプリセプターにつけると新人が辞めるという噂にを聞いて、まだまだ元気なんだなぁと笑ってしまった。