たっくんが入院して10日。初めての面会へ行く。家族のみの許可らしいが、先生がたっくんとの関係性を理解してか許可が出て予約がとれた。
バスと電車ですんなりいけば2時間といったとこだ。乗り換えの駅で病棟にお菓子を買う。たっくんとも面会中にモンブランを一緒にたべたいなと思い、ケーキのガラスを覗くと、六百円以上していてたまげた。
ケーキはあきらめて パン屋で砂糖がまぶしてあるアンパンを買う。たっくんの好きなパン。なんでも都会は高いなぁ。
昨日からなんだか たっくんに会うのが怖かった。あんな状態で入院して、自殺未遂みたいなことまで起こして、まだ10日しか経っていないのだ。まだ、妄想の話をするのか、はたまた薬でドロドロになって呂律が回らないとか、、薬をこっそり吐き出しているとか小声で告げられたらどうしよう…などなど。
病院について面会の個室に通された。
「どーもー」ドアがあいて 病衣を着たたっくんが私の前に座った。
だいたい 良く考えたら、いや考えなくても あんなに振り回しといて どーもじゃねぇ!
たっくんは 目を見開ききょとんとしている。
あれ?まだおかしいか?
「どう?夜は良く眠れてるの?」
「眠れてる」
「拘束は外れたの?」
「外れた」「パンツにもなったよ」と病衣の下からトランクスをチラリ。そうか、拘束中はオムツだよね。
「まだ、恐い感じする?」
入院前は狙われている妄想が強くて警戒して怯えていたけど、いまは落ち着いてみえる。あえて妄想とは言わず聞いてみる。
「今は病院の中にいるからわかんない、外に出たら又わからないけどね。」
うん、うん。まだあれは病気による妄想状態だとは自覚はないけど、今は安心して過ごせているみたい。
仕事のことについて聞くと「わかんない」
入院前のたっくんは今の職場や前の職場がグルになって自分を陥れようとしているという妄想が強かったけど、今は何が本当なのか分からない、混乱していて考えると疲れるってな感じらしい。
「薬ちゃんと飲んでる?吐き出したりしてない?」ここは直球で聞く。1番大事なのだ。たっくんは今までに上手に薬を飲まない患者さんのやり方をいくつも見てきたはず。
患者さんのなかには手に薬を出すと、手から口に入れる手つきをしながら手の窪みに薬をのこしていたり、頬の内側に薬を上手く隠し自室にもどりうがいをするなど… 上手に拒薬をする患者さんがいる。看護師は内服後患者さんに口を開けてもらい、舌もあげてもらい確実な内服チェックをする。あとは先生に依頼して口の中ですぐに溶ける薬や錠剤を粉薬に替えたり、筋肉注射にしたりする。退院してからの事も考えると、病識がない患者さんが内服をつづけられず再入院という人も多い。1回で効果が持続する注射は確実だが、痛みが伴うので嫌がる人もいる。
「飲んでるよ」とたっくん。
「お酒は?飲みたくならないの?」
アルコール依存症がお酒を断つと地獄のようだと聞く。
「今はならないかな。でも家に帰って時間があると飲んじゃうと思う。」正直な人だなと思って今までの質問の答えも信じられる気がした。
なんせ面会時間が10分しかないのだ。たっくんに取り調べのような質問ぜめでごめんなさい。
そうだ、思い出してアンパンを出す
「面会で差し入れダメって書いてあったけどいいの?」とたっくん。「面会のとき食べれる位だったらいいって言われたよ」と言うと「じゃあ食べる」とばくばくアンパンをあっと言う間に食べてしまい、なんだかこっちの力が抜けた。
みちくんが小声で話したのは、病院のご飯の量が少ないんだよね ということだった。体重だいぶ落ちたんだよと お腹をつまんで見せてくれた。
「お話中すみません〜。10分経ちましたので〜」と看護師がやってきた。恋人同士久し振り会えたのに、ちっとは多目にみれんのかいとは口には出さず「はーい」と返事する。じゃあ またねとあっさりたっくんは病棟のドアのむこうへ。
カンカンカン!面会終了〜!
たっくんが行ったあと看護師に状態を聞いてみるが「今は落ち着いています」とクールな対応だった。あたしだったらもうちょっと!と思ってしまった。患者さんの家族に親身になることで病院への信頼に繋がると思いますけどぉぉ?????
私にとったら大切な彼氏でひとりしかいないたっくんだけど、看護師さんからしたら沢山いる患者さんの一人でしかないからね。
帰り道はタクシー代をケチッて駅まであるく、行き道タクシーの運ちゃんは「歩くと結構ありますよー」といってたけど 感覚的に30分くらいあるけば着きそうな感じだったから。ナビをみながら歩く。
とりあえず良かった。すごーく良くはなってないけど、少しだけ良くはなっているみたい。
私が出した手紙を大事そうに持っていたたっくん。先のことを考えるのは辞めよう。絶対良くなるって私が信じなきゃだめだよね。言い聞かせるようにそう思う。