入院するまで 11

19時半病院に到着。車で問診票をたっくんと一緒に書く。心配して車の窓から話しかけてくれる義理のお姉さん達の声掛けをたっくんは無視し、私の方に身を寄せた。車からは素直に降りてくれる。私の経験では入院が嫌でなかなか車から患者さんが降りなかったり、暴れる場面を知っていたのでホッとする。夜間での入院受け入れのため、病棟にはまだ上がらず簡易的な診察室に通され医師を待った。        しばらくして若い医師が来て、問診をするのだが、たっくんは目を閉じたままうつむき一切話さない。変わりに私が経緯を説明する。今まで躁うつ病と診断されたことはないが、看護師なのでおおよそ自分で検討がつき、具合が悪いときだけ受診し、なんとかコントロールできていたこと。今回の躁状態やアルコール依存があり夜勤にもお酒を持ち込んでいたことやここ数日パタリとお酒を辞めたので離脱症状もかさなっているのではないかということ。追われている妄想が強く行動化していることを説明した。なるべくたっくんを傷つける言い方は避けるように意識したつもりだ。    問診が終わり、先生からゆっくり休むため個室で鍵をかけさせてもらいますと言われる。隔離になると思っていた。病棟ナースが迎えにきて、ご家族様はここで、、、とたっくんを病棟へ誘導する。たっくんは私達ひとりひとりに無言で深々と頭をさげて大人しくナースの後ろをついていく。         なんだか刑務所に入るひとの背中みたいだった。

私はたっくんがバリバリ病棟で看護師をしている姿をしっている。病院で、同じ病棟で出会ったから。夜勤明け要点をついた申し送り、点滴や採血もうまかった。冷静で慌てることなんてなくて、患者さんの心をつかむのもうまかった。患者さんの爪切りが好きで良く爪切りをしていた。大変な患者さんを看護する側の人間だった。精神科看護において たっくんを尊敬していた。20年間精神科病棟の看護師として大変な人に関わってきたたっくんが入院して隔離される立場になると思うと、そしてそんな現実をたっくんがどう感じでいるのだろうと思うと苦しかった。

家に送ってもらう途中 従兄弟のおじさんが「あんたがいなきゃ、たくは入院でなかなかったよ」と言ってくれた。     お兄さんからは「過剰な心配はあなたのエゴで相手のためにしていることでも、実際は自分のためにしている」と言われたが、ハイハイきいているのも違うと思い、「私は精神科の看護師として十年いろんな患者さんを見てきて、今回のたっくんの状態は一刻もはやく入院させないと事件や事故が起きていたと思います。」と反論した。同じ家に住んでいても、1階と2階でほとんど顔を合わせない兄弟やたまに合う親戚と私は違う。たっくんの変化をそばでみてきたのは、彼女である私の目と看護師である私の目だ。そして他の誰よりもたっくんを愛しているのは私なんだ。

家についたのは22時をまわっていた。家について たっくんが朝から何も食べていないことを思い出す。しまった、看護師さんに伝えるのを忘れていた。たっくん今日は眠れるかな… 私も休まないと、明日は仕事だ。隔離されているたっくんを思い浮かべるのを振り切り布団に入った。