入院するまで⑩

受け付けのおばさんが、気を使って絆創膏を私にくれた。お礼をいって腕にはると思ったより血が滲んだ。くそっこれくらい! 

今までの一部始終をみてクリニックのナースが、別室に通してくれて個室で入院調整連絡を待つように言われる。たっくんにはお薬を1錠飲んで落ち着くよう言われて内服する。ホッとしたのも束の間、まだまだみちくんは落ち着かない。とにかく誰かに狙われている妄想がつよい。個室をくまなく見渡し怪しいと思うものは手にして確認しているし、椅子の位置をあれやこれやと動かし、誰かが個室に入って来ないようにガードし始め、個室まどに病院のカレンダーをやぶいてアルコール消毒で濡らしてはりつけ中を外から見えないようにし、電気も消し片方のドアには鍵がついていたのでそれも閉めてしまう。私やおじさんには部屋の角や壁側に身を寄せるように指示し、自分は鍵が掛からないほうのドアの近くに座り個室の外を警戒していた。切迫していて顔には汗をかいて目には恐怖が感じられた。時どき私の洋服の端をつかみ恐怖と闘っていた。このあとも感じることになるんだけど、たっくんは追ってくる何者か、攻撃してくる何者かから私達を守る姿勢だった。今思うと泣けてくる。だってたっくんの中で狙われていることは現実のように感じでいたわけだから。病気になっても優しさが残っている。

お兄さんがクリニックに到着する前に、クリニックが閉まってしまうため、車のを止めたパーキングの車の中でお兄さんを待つことになる。たっくんがクリニックから車のまでいく間又走り出したりしないかヒヤヒヤして、たっくんの腕にしっかり手を回す。たとえ引きずられたとしても、絶対はなさい!               なんとか車に乗り込む。おじさんが気を利かせてたっくん側のドアをロックした。たっくんは社内でも私に頭を低くするように言いわたしを自分の膝に横にならせ、頭をおさえたり、周りをキョロキョロと警戒している。 結局お兄さんはたっくんの義理のお姉さんとお姉さんの旦那さんが運転する車でクリニックまで来てくれた。パーキングが分からず何度か電話がきたので、従兄弟のおじさんがパーキングの出口の道路から見えやすい所まで車を動かす。ちょうどお兄さん達が私達の車にに気づいたらしく車がパーキング前まできた。お兄さん達が私達の車に気づいたのは私から見たら明らかだったんだけど、入庫してしまうとお金がかかってしまうからお兄さんたちはパーキングに入らずに車を止めた。それを見ていたたっくんは お兄さん達が私達に気づいてないと思い、慌てて「兄貴が行っちゃうから行ってきて!」と。「え?気づいてるみたいよ」と言う私に、「気づいてないよ!ほら!早く言ってきて!」と焦り、自分側のドアはロックされているから、私側のドアを開け「お前がいくんだよ!!!」とどなり急に私を突き飛ばした。私は座った体勢で足が車の中にあるまま思いっきり開いたドアに向かって突き飛ばされ、車から転がり落ちそうになり「きゃーー!!!」と叫びながらドアに必死につかまった。恐ろしくて、なみだで顔が歪んだ。お兄さん達が私の叫び声にびっくりして、どうしたどうしたとなる。    なんとか平常心に戻す。2台の車で入院する病院に向かって走る。2日不眠のおじさんと たっくんのお兄さんが運転を変わった。

人数が増えて心強くおもったものの、パーキングでお兄さんにたっくん側のドアにロックがかかっていたのを私がしたと思ったらしく「過剰な心配をして、ロックをかけなくても…」とややわたしを責めるような発言に聞こえたことと、         クリニックにいたとき難聴の従兄弟のおじさんがたっくんに「いい子だけど、おれは前の子(たっくんの元妻)のほうが良かったなぁ」って話してるのを聞いたことを思い出した。    たっくんのお兄さんだって今回たっくんが具合が悪くなってから初めましてだったし、従兄弟のおじさんなんて今日初めて会ったんだけど。 くだらないことなんだけど、どーでもいいけど、なんか急に悲しくなってきて、隣にすわっているたっくんに気づかれないように外を見ながら涙を貯めたのをこらえていた。  途中からたっくんは私がないているのに気付いたらしく病院につくまで私の頭を優しくなでてくれた。1番辛いのは私じゃない、分かっている。でも、涙が溢れて止まらなかった。お兄さんたちにはわからないよう声をころして泣いた。