プロポーズ⑭

貧乏ケチ子は朝7時20分のバスに乗ってたっくんの初めての病院からの外出に出発!

国際バスは駅まで240円、市内循環バスは100円。たとえ本数が少なくとも譲れない。早く着く分にはいいのだ。

田んぼの稲が元気に育って田舎の夏の風景だ。梅雨の中休み、暑い。

 朝ごはんを昨日作った牛乳寒天ゼリーしか食べていなかったので、暑さで倒れては仕方ないと電車乗り換えの時にパン屋さんに寄った。前回の面会にきた時も寄ったんだけど、高いのよ、お値段。パン1個400円とか普通にするわけ。都会だから。私の手の握りこぶしくらいの大きさのパンに400円なんていくら美味しそうでも払いたくない。お店の中で1番安いきな粉揚げパンを1つ買った。190円。        電車から降りてから病院までは徒歩。もう歩けることが分かったし、タクシーには頼らない。病院の近くにはインターチェンジがあって頭の上を高速道路が渦巻く。圧迫感。誰も歩いてる人なんていない。ぐんぐん歩く。大きく腕を降ってどんどん歩く。 

病院の中庭できな粉揚げパンを食べてエネルギー補給。高いだけあっておいしかった。

たっくんの病棟に迎えに行く。たっくんは髭ヅラで私が送った服を着て出てきた。看護師さんらそっと「分かってはいると思いますが、お酒は飲まないようにしてください。」と言われる。えぇ、分かってますよ。

病棟を出ると、清子に紹介したい人がいると入院仲間を紹介してくれた。2人とも感じが良さそうなひとで、「たっくんにはお世話になってます」と挨拶してもらった。精神科に入院したことのある私の母も辛い入院時一緒に過ごした友達を大切にしていた。看護師のたっくんだもん、話を聞くの得意だし優しいから慕われるのも頷ける。

コンビニで飲み物を買う時、冗談か本気か「ノンアル…」と言うので「お茶でしょ」返す。

外出はどこへ行くのかと聞くと「ホテル」とたっくん。え?!と思ったけど、まぁ、暑いし又駅まで歩くのも気が遠くなるし、そのほうがゆっくりできるかなと思って歩いて向かう。病棟の窓から遠くに看板が見えてチェック済らしい。

行きも帰りもたっくんの行動をみていたけど、沢山車も走っていたし、大きい道路をわたったりしたけど道路脇に生えている植物を見ていたりして落ち着いて見えた。

初めての外出だし、あれこれ聞くのも可哀想だし入院の息抜きとして楽しく過ごせればいいやと思ってはいたんだけど、やっぱり入院前の妄想に本人がどう思っているのかは確認したかった。           「入院した日に自殺未遂みたいなことあったでしょ?あれはなんだったの?」    「なんだったと思う?」         「病院の質を試すためだったって聞いたけど、私は半分は本気だったのかなって思った。」                「死のうとしたわけじゃないよ、だけどあぁしないと収まらないっていうか、そうすることで上手くいくってことだったんだよね。」

入院前の妄想はまだたっくんのなかでは現実としてあるようだったけど、解決したような口振りだった。自分が入院することや自殺未遂を演じることで、みちくんの物語が上手く終わりを迎えたらしい。だから勿論入院前に周囲を振り回し、心配をかけたことに対しで、あんなことをしてしまった!自分はおかしかったって言う認識はないんだよね。だから申し訳なかったとか、ごめんね、あんな事してとはならない。 母の時もそうだ、小学生の私をあれだけ振り回しても何十年経ってもあの時はごめんね、お母さんおかしくて、みっちゃんに辛い思いさせたね、、と言われたことはない。本人が病の真っ只中にいて、病気の操り人形状態で家族の想いなんて気にする余裕なんてないんだから。でも、 でも何年経ってでもその言葉で全てが救われることだってあると思うよ。

ホテルで、たっくんが急に真面目な顔をして何か言いだそうとしている。ひとつひとつ練習していた言葉を思い出すようにして、たっくんは私に

一緒に幸せになりたいから、結婚しよう!

 

まさかのプロポーズ。

もうなんだろ、状況が状況なわけ。今ここはラブホテル、私は裸にタオルを巻いたような巻かないような姿。たっくんは精神科入院中の外出で、もちろん仕事は休職しているし続けられるか分からない状態。

まだ少し躁状態?な気もするけど、真剣そのままのたっくんに、私はハイと答えた。内心は はいはい、わかりましたというやや投げやりなYES。だいたい結婚するくらい好きじゃなきゃ入院する時点で別れてる。これからの人生同じように振り回される可能性ぎあるんだからさ。

自分でもたっくんが大変になって、自分の子供を想うのと同じように心配して必死になるんだなって思った。それでも一緒にいる未来を想像するんだから、愛してるのかなって。

もうちょっと違う場所が良かったけど、相手にも自分にも期待しないことが幸せの近道って最近気付いた40のおばさんは人生2回目のプロポーズをとりあえず受け取ったのでした。

そういえば、19歳のときに元旦那さんにプロポーズされた時は ちょっと考えさせて。と答えたんだった(笑)

いまより大人〜

 

 

まきちゃん

まきちゃんは高校2年生。        眼鏡をかけていて、長い黒髪をいつも飾り気のないゴムで下のほうに1つ縛りしている。ご飯を食べる時と寝る時以外は病棟から出て携帯でゲームをしている。

まきちゃんはお父さんと2人暮らし。お母さんは亡くなっている。          

年頃の女子高生とお父さん。お父さんは精神科に通院している。まきちゃんは普通の女子高生でちょっとあわてんぼうな所と朝起きれない所があるくらいで、高校1年生の時の成績も良く、お洒落やメイクより読書やゲームが好きな女の子。

まきちゃんはお母さんが亡くなってから朝起きれずに学校を休みがちになってしまい、単位が危なくなってきた。お父さんとの仲もうまくいっておらず、全く言う事をきかないらしい。女子高生なんてそんなもんだと思うが、お父さんとの距離をとって学校に通うために入院してきた。お父さん自体の精神安定のためでもあった。

まきちゃんは病棟でも何の問題もなく、職員にも笑顔で対応してくれたし、必要以外はまきちゃんから話しかけてくることはなく、ほとんど空いた時間は病棟から出て、売店の椅子の隅に座り深く下をむいて携帯の音ゲーに熱中しているようだった。

後から考えたらすごく自分本位なのだが、まきちゃんが抱える悲しみや不安を表出して欲しかった。たった1人のお母さんを亡くして頼りないお父さんと家に残されて、家事もしなくちゃいけなくなって、急激に変化した日常。現実逃避したくなるよ、そりゃ。

それとなく機会を見て話かけてみたけど、まきちゃんはいつも笑顔で、職員に馴れ馴れしくなることも、甘えることもなく、わがままを言うこともなく、別に何事もないかのようだった。

少し慣れてきた頃、家族のことを聞いてみたら、家族3人で京都を旅行して景色がきれいだったと笑顔で話してくれた。

別の日にお家で生活してて困ることはない?と聞いてみたら、ごみ捨てとか、排水溝の汚れを片付けたりしてると なんで私がやらなくちゃいけないんだろうって思うと下を向きながら早口で話してくれた。顔は笑っていた。

少しずつお節介ながらまきちゃんとの距離を縮めたかったけど、3ヶ月たっても高校へはあまり行かず、長期の自宅外泊を繰り返し、病棟では病棟外に出てゲームをしているまきちゃんだった。

 

ある日まきちゃんが病棟外で散歩やゲームをしてお昼まえに病棟に帰ってきたとき、ととと…と私に近づき          「寒かったぁ!ほら」とまきちゃんから私の手を繋いできてくれた。氷みたいな冷たい手が私に触れたあと、驚きの次にじんわり広がる暖かい感動が私のなかに広がった。「ほんとだ」と言う私に、ニッコリしてまきちゃんは小走りで自室に戻っていった。

私は余韻に浸っていた。相手に触れることのハードルをまきちゃんから飛び越えてきたことが嬉しくて嬉しくて。

入院し始めは、看護師として母を亡くした悲しみに少しでも寄り添えたらと力になれたらと思ったけど、そんなの高慢だった。

まきちゃんは入院している必要性が少ないためその後すぐに退院していった。

まきちゃんはゲームが大好きで、朝が苦手な普通の女子高生だった。

 

 

そんなもん

仕事がつまんない、面白くない、評価されることもないし

「俺も、そうだよ」

 

みんながワイワイ仕事中に盛り上がってても、冷めてる自分がいるんだよね。   馬鹿みたいってだいたい作り笑いしてる。

 

「そんなもん、だよ」

 

宮本くんも仕事楽しくないの?

 

「楽しくは、ないね」

 

行きたくないなぁって思いながら行ってる?

 

「そうだね、みんなそんなもんだよ」

「働きたくないんでしょ、結局」

と言ってケラケラ宮城くんは笑った。

 

「やだな、辞めたいと思いながらも居続けられる場所が自分に合ってるんじゃない?」

 

そんなもんなのかなぁ

井村屋のあずきバー

あたしを唯一救ってくれる井村屋のあずきバー。仕事終わりにベルクで買う69円の幸せが今日も染みる。

今の仕事やめたいなぁ。

1年やって楽しくないんだから、何年いても楽しくないと思う。

意地悪な人はいないけど、居心地が悪い。作った自分に作った笑顔、気前のいいその場だけの相槌。本当は全部がどうでもいい。

時給のため、ただそれだけ。

ギリギリに出勤して、ぴったりに帰る。無駄に居たくない。

今日は朝から体が重くて、だるくて時間が経つのが遅かった。

 

辞めたいよぉ。

 

優しいミルクの中にあんこと練乳。これで気持ちを回復させて自分をいたわる。

頑張ってるよなぁ、わたし。

井村屋さんありがとう。

500円のバナナジュース

お金に対する価値観って人それぞれだなぁって思う。自分で働いたお金を自分で使うんだから、大きく逸れない限りどの感じ方や考え方も間違っていないと思う。

という前提で…。

わたしが務めるデイサービスでは外出活動が多い。ドライブなど車から利用者さんを降ろさない活動や、スタバのドライブースルーを利用したり、お昼ご飯のテイクアウト、スーパーで利用者さんと買い物、地域のお祭りに参加や、プール、外食、映画、時には1日外出でネズミーランドやアウトレットモールまで出掛けたりする。

例えば利用者さんと、スタバへいこう!活動のとき利用者さんはもちろん個々の財布から飲み物を買う。スタッフも買う。

もちろんスタッフの分は各々自腹だ。正直私はいらない。スタバの抹茶フラペチーノはたしかに好きだし飲みたいかと言われたら飲みたい。だけど、スタバの飲み物は高い。500円から600円位平気でする。    私以外のスタッフは何だか楽しげにメニューを選び飲み物を購入している。「斉木さんも買いますか?」若いスタッフの女の子が声をかけてくれた。         「いいや、わたしは水筒あるし」と答えた。家から持ってきた水筒には麦茶が入っている。               みんなが飲み物を買い終わり車に戻ると、先程私に声をかけてくれたスタッフが「斉木さん、これ」とスタバの飲み物を差し出してきた。「え?」私の分を買っていてくれたのだった。「いいよ、いいよ、悪いから」驚いて断るが「大丈夫です、買っちゃったので飲んで下さい!」と笑顔で飲み物を渡された。誰でも好き嫌いなさそうな甘いフラペチーノ系の飲み物を選んでくれていた。

「ごめんね、、、有難う、、」              

買ってくれたのは私より一回り以上若いスタッフだ。  … 困った。普段から優しい気配りの出来る娘だから、わたしが遠慮していると思って気を使ってくれたのだろう。わたしは嬉しいのか、恥ずかしいのか複雑な思いでそのフラペチーノを飲んだのだった。 だいぶ後になってからだが別の物で自分なりにお返しをした。

別の職員とスタバ活動になった時も、全く同じ事になってからは、もう欲しくなくても自分も何かしら頼み、自分でお金を払う事にした。それが1番楽だと分かった。みんなが飲んでいて一人だけ飲まないというのが許されないというか、可哀想な人になってしまうのだろう。 

毎回 500円あったらお肉1パック買えるなぁ…と思ってしまう。安いパート代でシングルマザーアパート暮らしには500円はでかい。8日で一万円、1ヶ月で4万円の食費を目標に家計簿をつけている。私にとって500円の価値はでかい。なんなら財布に500円入っていれば安心する。そういう感覚なのだ。いつも買い物は1つのスーパーにしぼって買い物をし、ポイントを貯めると1ヶ月に1回は500円のお買い物券がもらえる。それで少し値が張るカフェインレスのインスタントコーヒーを買って、幸せな気持ちになる。

 

今月は月初めに1日外出の仕事を頼まれて、お洒落なカフェで利用者さんとランチをして2000円位使ってしまった。さすがにお店で弁当を広げるわけにはいかない。そして今日は、お祭りにいこう!という活動で駅前に外出し、出先でバナナジュース屋さんでジュースを買おうと言う話になった。私は初めから「水筒があるから私はいらないから」と断った。さすがにパートをはじめてから1年は経つし、もう解ってくれるだろうと思っていた。

だけど、また   …また歳下の若い女の子が私の分のバナナジュースを買ってくれたのだった。困る私に、その子は「気にしないでください、ホントにいいんです。」と言ってくれる。

帰りの車で飲んだ500円のバナナジュースの味は良く分からなかったが、又やってしまったことは分かった。         他のスタッフがいないところで、無理矢理500円をその娘に渡し、「ごめんね、有難うね」というと「こっちこそ、なんかごめんなさい。」と泣きそうな顔をさせてしまった。

私はカフェでお茶するのが本当は大好きで、休日にたまにカフェにいって1000円位使うこともある。でもそれは自分にとってご褒美感覚だし、慣れた店のお気に入りの飲み物やランチ、そしてそのお店で過ごす時間にもお金を払っているつもりで、自分のなかで納得した支払いなのだ。

だから周りに合わせるためという理由に500円は払いたくないのである。

仕事から帰り、家計簿にバナナジュース¥500と書き込んだ。

 

10分の面会 ⑬

たっくんが入院して10日。初めての面会へ行く。家族のみの許可らしいが、先生がたっくんとの関係性を理解してか許可が出て予約がとれた。

バスと電車ですんなりいけば2時間といったとこだ。乗り換えの駅で病棟にお菓子を買う。たっくんとも面会中にモンブランを一緒にたべたいなと思い、ケーキのガラスを覗くと、六百円以上していてたまげた。

ケーキはあきらめて パン屋で砂糖がまぶしてあるアンパンを買う。たっくんの好きなパン。なんでも都会は高いなぁ。

昨日からなんだか たっくんに会うのが怖かった。あんな状態で入院して、自殺未遂みたいなことまで起こして、まだ10日しか経っていないのだ。まだ、妄想の話をするのか、はたまた薬でドロドロになって呂律が回らないとか、、薬をこっそり吐き出しているとか小声で告げられたらどうしよう…などなど。

病院について面会の個室に通された。

「どーもー」ドアがあいて 病衣を着たたっくんが私の前に座った。

だいたい 良く考えたら、いや考えなくても あんなに振り回しといて どーもじゃねぇ!

たっくんは 目を見開ききょとんとしている。

あれ?まだおかしいか?

「どう?夜は良く眠れてるの?」

「眠れてる」

「拘束は外れたの?」

「外れた」「パンツにもなったよ」と病衣の下からトランクスをチラリ。そうか、拘束中はオムツだよね。

「まだ、恐い感じする?」

入院前は狙われている妄想が強くて警戒して怯えていたけど、いまは落ち着いてみえる。あえて妄想とは言わず聞いてみる。

「今は病院の中にいるからわかんない、外に出たら又わからないけどね。」

うん、うん。まだあれは病気による妄想状態だとは自覚はないけど、今は安心して過ごせているみたい。

仕事のことについて聞くと「わかんない」

入院前のたっくんは今の職場や前の職場がグルになって自分を陥れようとしているという妄想が強かったけど、今は何が本当なのか分からない、混乱していて考えると疲れるってな感じらしい。

「薬ちゃんと飲んでる?吐き出したりしてない?」ここは直球で聞く。1番大事なのだ。たっくんは今までに上手に薬を飲まない患者さんのやり方をいくつも見てきたはず。

患者さんのなかには手に薬を出すと、手から口に入れる手つきをしながら手の窪みに薬をのこしていたり、頬の内側に薬を上手く隠し自室にもどりうがいをするなど… 上手に拒薬をする患者さんがいる。看護師は内服後患者さんに口を開けてもらい、舌もあげてもらい確実な内服チェックをする。あとは先生に依頼して口の中ですぐに溶ける薬や錠剤を粉薬に替えたり、筋肉注射にしたりする。退院してからの事も考えると、病識がない患者さんが内服をつづけられず再入院という人も多い。1回で効果が持続する注射は確実だが、痛みが伴うので嫌がる人もいる。

「飲んでるよ」とたっくん。

「お酒は?飲みたくならないの?」

アルコール依存症がお酒を断つと地獄のようだと聞く。

「今はならないかな。でも家に帰って時間があると飲んじゃうと思う。」正直な人だなと思って今までの質問の答えも信じられる気がした。

なんせ面会時間が10分しかないのだ。たっくんに取り調べのような質問ぜめでごめんなさい。

そうだ、思い出してアンパンを出す

「面会で差し入れダメって書いてあったけどいいの?」とたっくん。「面会のとき食べれる位だったらいいって言われたよ」と言うと「じゃあ食べる」とばくばくアンパンをあっと言う間に食べてしまい、なんだかこっちの力が抜けた。

みちくんが小声で話したのは、病院のご飯の量が少ないんだよね ということだった。体重だいぶ落ちたんだよと お腹をつまんで見せてくれた。

「お話中すみません〜。10分経ちましたので〜」と看護師がやってきた。恋人同士久し振り会えたのに、ちっとは多目にみれんのかいとは口には出さず「はーい」と返事する。じゃあ またねとあっさりたっくんは病棟のドアのむこうへ。

カンカンカン!面会終了〜!

たっくんが行ったあと看護師に状態を聞いてみるが「今は落ち着いています」とクールな対応だった。あたしだったらもうちょっと!と思ってしまった。患者さんの家族に親身になることで病院への信頼に繋がると思いますけどぉぉ?????

私にとったら大切な彼氏でひとりしかいないたっくんだけど、看護師さんからしたら沢山いる患者さんの一人でしかないからね。

 

帰り道はタクシー代をケチッて駅まであるく、行き道タクシーの運ちゃんは「歩くと結構ありますよー」といってたけど 感覚的に30分くらいあるけば着きそうな感じだったから。ナビをみながら歩く。

とりあえず良かった。すごーく良くはなってないけど、少しだけ良くはなっているみたい。

私が出した手紙を大事そうに持っていたたっくん。先のことを考えるのは辞めよう。絶対良くなるって私が信じなきゃだめだよね。言い聞かせるようにそう思う。

 

入院した次の日 12

たっくんが入院した次の日の朝、たっくんのお兄さんから電話があった。

「今朝、病院から電話があって、なんかたくが首つったみたいで」

???????             首つる?

え?たっくん死んじゃったの??

お兄さんの電話の話し声は落ち着いている。未遂???

話を聞くと たっくんは個室のドアを内側から机や椅子で開かないようにして、首をつるまねをして、この病院のレベルを試そうとしならしいのだ。

はぁっ… 生きてた…

試そうと?ほんとに?死のうとしたけど上手くいかなくて言い訳してるの?

精神科病棟では自殺する人や自殺未遂はたしかに多い、たっくんも20年精神科看護をしていれば何回かはそういう場面に対応したり、聞いたりしたことがあったんだと思う。結び目をほどかないとか、警察呼ぶとか色々対応のマニュアルがあるんだよね。 それにしても、もし演技だったとして間違えて死んだらどうするんだ。

だいたい隔離してんだったら椅子とかテーブルとか危険なものは食事のとき以外出していてほしい。入院初日だよ?それくらい看護側も警戒してくれ。

これでたっくんは拘束になっちゃうなと思った。

お兄さんは続けて、医師から躁うつ病双極性障害とたっくんが診断されたと教えてくれた。でも 統合失調症も疑いがあるから経過をみないとらしい。たしかにあの追跡妄想や被害妄想は統合失調症の妄想に多い。躁状態は色々検索したけど妄想はあまり該当しなかった。

お兄さんは「自分も色々ネットでしらべたんすけど、躁うつ病って薬でよくなるらしいじゃなですか、ネットで薬も買えるみたいだし、お金もないしそんなに長く入院させなくてもいいかな〜って。 アルコール依存症って診断されたわけじゃないし、そんなに心配することないと思うんですよ」

なんかもうガクーって感じ。たっくんは自分で判断してコントロール出来なくて結果悪化したんじゃん!なんでネットで薬買うのよ!そんな簡単な病気じゃないから病院があるんでしょ、医師に受診するんでしょ!だいたい薬だって自分に合う薬見つけるまでも大変だし、副作用だってあるんだよ! たっくんはアルコール依存症だよ!仕事に酒持ってく時点でバリバリ依存だろ、酒がないと寝れないって完璧に依存だろ!あたしと約束するまえまでは飲酒運転まで平気でしていたんだから! ちゃんと治療しないとダメなのよ!躁のあとには鬱がくるのよ!大きい躁だと大きい鬱の波がくるの!これからも危険なのに なんで早めに退院させんのよ!おかしいから!そんな簡単な病気じゃないから!       

お兄さんは私を心配させないように言ったのかもしれないけど、あまりの無知さにガッカリした。とりあえず心の声を5枚くらいオブラートに包んで「きちんと治療しないと再発する病気なので、急がずゆっくり治療したほうがいいと思います」と伝えた。協力してくれる家族がいるだけで有り難いんだけどね、、、。 昨日伝え忘れた傷病手当や医療費の限度額適用のこと、たっくんの仕事の休職の連絡や診断書の話をお兄さんに伝え電話を切った。        

 

夜勤で自殺未遂なんかされたら大変なの、1番知ってるくせに、たっくん。 

最近、動悸を自覚する日が増えた。   また穏やかに、くだらないことして2人で笑える日がくるのかな。         たっくんお酒やめれるかな。        元のたっくんに本当に戻るの?

病室で拘束されて、天井を見つめるたっくんの顔が浮かんだ。