岡さんのこと

岡さんはたぶん、10人いたらそのうち7人には嫌われるというか嫌煙される人だと思う。

とにかく空気を読まないし、というか読めないし、読もうという意識もないし、人の話を半分位しか聞いていないと思う。

しかも自分に都合の悪い話ほど聞いていない。あきらかに岡さんに相手は話しているんだけど、明後日の方を向いて ふーん…と立ち去っていく。スルー力がめちゃくちゃ強い。

一応(失礼かな…)看護師さんなんだけど、70越えているからか まぁ 年齢だけのせいには出来ないけど、

良い意味で一般的な味方で患者さんを見て意見する。

「普通○○だよねー!こんなの変だよねー!」って言うんだけど、患者さんは精神疾患があるから出来ない事があったり、症状として現れていることもあるから入院しているわけなんだけど、

岡さんは、そんなこと関係なくて「おかしいよねー!」と憤慨している。

こちらも、病気の説明的な話をしたりするんだけど、これまた圧倒的なスルー力で全く聞いてない。

それでもって患者さんに直接、「あなた、〇〇なのはおかしいわよ」なんて説教じみたことを言って患者さんに嫌われるは、叩かれるは、師長から注意されたり、他の看護師に呆れられてしまっているのだ。

でも、岡さんは誰にどう思われるかより、自分がどう思うかが大切で自分の思うように発言し、行動しているから楽しそうに見える。

岡さんは長年この病院に勤めていて、私がいた病棟に異動になるまで悪い噂しか聞かなかった。病院のなかの主要なメンツに嫌われているとか、使えないとか。だから私は一緒に働くまでは仕事にやる気がなくて全然動かない人かと思っていた。

岡さんが私がいる東2階病棟に異動の事例が出たとき、「えーっ!」と露骨に嫌がる看護師さんもいたくらいだ。

だけど、岡さんは年齢の割にフットワークが軽い。患者さんに呼ばれれば、小走りで走っていくし、だいぶ年もはなれた私がするお願いもパッと駆けつけて嫌な顔せず一緒に手伝ってくれる。

聞いてないな〜と思う場面でも、ちゃんと「岡さん」と呼びかけて伝えれば、年下の私にも「ごめんね」と謝ってくれたり、「ふーん、そうなの?」と聞く耳を持ってくれる。

たまに自分の独自のアイディアで暴走したりするんだけど、岡さんなりに患者さんを思っての行動だと理解できた。

だから私は岡さんの事が好きだった。友達に、よく岡さんと仲良くできるねーって首を傾げられたけど、話しやすく、頼みやすく明るくちょこまかと動く岡さんは たとえトンチンカンな場面があっても憎めない存在だったし居心地が良かった。

ある日、その日の日勤者が岡さんと私以外男性の看護師や補助者さんしかいない日があった。私は生理2日目かなんかで、フッと気になってお尻をみたら白衣が赤くなっていて慌ててトイレに駆け込んだ。ナプキンと白衣を交換してもパンツは血液でかなり染みていて、これでは又白衣に滲み出てきてしまう。

病院の売店グンゼのデカい白パンが売っているからそれを買うか、恥は捨てて患者さんの紙パンツを1枚頂戴するか…

とりあえず ダメもとで岡さんに「生理で汚してしまってパンツ持ってます?」ときくと、「持ってるよー!」と。「私のでいいの?」と何回も聞いてきて(可愛らしい)「ちゃんと洗濯してあるからー!」と言う。2人でロッカーにいくと、岡さんはロッカーから まあまあ大きめのビニール袋を取りだした。そのなかにはパンツがぎゅうぎゅうに詰められて入っていた。

どう考えても現在生理はない岡さんに、これ程のパンツのストックがあるのかは謎だが、お風呂介助で汗をかいた時用だと言う。ぎゅうぎゅう詰めのパンツの袋から岡さんはパンツを1枚渡しに行く渡し「ちゃんと洗濯してあるからー!」と再び言った。「捨てちゃっていいからねー!」と。

私はやっぱり岡さんを好きだなぁと思いながらパンツをもらったのだった。